更新 2024-2-23
電気化学反応の用語
電気化学反応には大きく二種類あります.
一つは電池.物質の持つ化学エネルギーを電気エネルギーに変換して使用します.もう一つは電気分解.自発的には起こらない化学反応を電気エネルギーによって起こします.その他、光や熱を用いた反応もありますが、大枠は変わりません.
こうした反応を考えるにあたって、問題となるのは用語です.
正極と負極、アノードとカソードは電池と電気分解どちらにも登場する用語ですが、何を指すかを理解していますか?
正極と負極、アノードとカソード、陽極と陰極
まずは実際の反応系の例を見てみましょう.
いずれにおいても外部回路で接続された一対の電極(電子伝導体)が電解質(イオン伝導体)によって分断されています.電解質は各電極のある部屋ごとに仕切られている場合が多いです.
アノードとカソード(Anode and Cathode)
アノード・カソードは起こる反応に着目した分類です.
酸化反応が起こるほうがアノードであり、ギリシャ語で上り坂を意味します.
アノード(Anode)に向かって移動するイオンがアニオン(Anion)です.
還元反応が起こるほうがカソードであり、ギリシャ語で下り坂を意味します.
カソード(Cathode)に向かって移動するイオンがカチオン(Cation)です.
アノード:
カソード:
正極と負極
正極・負極は電位に着目した分類です.
電位が高い方(プラス)が正極、低い方(マイナス)が負極です.
電流は電位の高い方から低い方へ流れ、反対に電子は電位の低い方から高い方へ流れます.
陰極と陽極
陰極・陽極は中学・高校で習う概念ですが、(たちの悪いことに)いくつかの流派があり定義が定まっていません.
例えば、「Weblio辞書」で「陰極」のページを見てみましょう
デジタル大辞泉では、以下のように書かれています.
「対となる二つの電極のうち、電位の低いほうの電極。負の電極。負極。マイナス極。⇔陽極。」
ゆえに、負極と陰極は同じということのようです.
一方、電気化学用語集では以下のように記述されます.
「カソードともいう。電気化学的還元反応が起きる状態にある電極。」
すなわち、陰極はカソードと同じ意味のようです.
つまり、陰極=負極=カソード?
残念ながら負極とカソードは全く別の概念です.以下で見ていくように電池の充電・放電や電気分解において負極とカソードは別の電極を指しています.
このような混乱の状況は1952年に刊行された技術資料でも指摘されています.[a,b]
実際に陽極・陰極という用語が使用されるときはどのような場合でしょうか.電気分解反応では電位の高低で陽極・陰極を区別します.ゆえに、電気分解では陽極=正極、陰極=負極.
一方、電池反応では電子が流れ出すか流れ着くかで区別します.ゆえに、電池反応ではカソード=陽極、アノード=陰極.
ややこしいわ!
現在のところ「アノード・カソード」と「正極・負極」の概念だけで事足りるので、「陽極・陰極」のワードはいらないんじゃないかと思います.
結果として、いずれの反応においても「正極=陽極」、「負極=陰極」となるのでそのように覚えてしまって良いかもしれません.
具体例
以上をもとに、具体的な例をもとに見ていきましょう.
ダニエル電池
ダニエル電池は極と極から構成され、以下の2種類の反応が起こります.
(1)
(2)
(1)ではが電子を失っているので酸化反応です.そのため、極の方がアノードとなります.
また、極で電子が生成して極の方へ向かっているので、電位は極が負、極が正です.それゆえ、極が負極、極が正極です.
鉛蓄電池
二次電池である鉛蓄電池では放電と充電で逆の反応が起こります.電池は極と極から構成されます.
放電反応
(1)
(2)
ダニエル電池と同様の考え方により、極がアノードであり負極です. 極がカソードであり正極です.
充電反応
(1’)
(2’)
充電反応では放電反応と逆の反応が起こります.
今度は極で還元反応が起こるので極はカソードとなります.逆に、極で酸化反応が起こるので極はアノードです.
電子は極から極に向かって流れますが、間に電源が挟まるので電位は極の方が高いです.ゆえに、極が正極、極が負極です.
放電反応と比べると、アノードとカソードは入れ替わり、正極と負極は変わりません.
塩水の電気分解
最後に電気分解反応を見ていきます.といっても、起こっていることは電池の充電反応と同じことです.
(1)
(2)
(1)がカソード、(2)がアノードです.かつ、(1)が負極、(2)が正極です.
まとめ
以上をまとめると以下のようになります.
電池放電:アノード=負極=陰極、カソード=正極=陽極
電池充電:アノード=正極=陽極、カソード=負極=陰極
電気分解:アノード=正極=陽極、カソード=負極=陰極
ややこしいですが、図を書いて整理するとおぼえやすくなります.