更新 2024-3-3
研究者の情報を調べよう
通常の会社員であれば、自分の仕事内容が表に出てくることはあまりありません.よほど業界の有名人でもなければ、ググっても自分の仕事内容を知られる可能性は高くないでしょう.しかし、研究者は違います.研究者は論文の発表、学会発表、特許の出願を通じて実名を広く公表しており、調べれば簡単に情報が見つかります.
本人が個人サイトで公表していなかったとしても、研究者の情報はネット中に転がっています.経歴やこれまでの研究業績くらいは簡単に調べることが可能です.民間企業勤めであれば情報はやや制限されますが、大学や研究機関に所属しているのであればまず間違いなく本人が見つかります.*1
研究者の情報を集めてどうするのでしょう.
例えば、共同研究先の研究者の経歴を調べてきちんとした人なのかを確認する.例えば、面接に来たポスドクを調べてどんな成果があったのかを調べる.例えば、研究者になったと聞いた同級生がどうなったかを調べる.例えば、気になっている研究室の教授の業績を調べてブラック研究室じゃないかを調べる.例えば、Twitterで炎上している研究者がまともな人なのかどうかを調べる.などなど.
普段の生活で必要になることはあまりないですが、知っておくと便利なこともあるかもしれません.今回は、ネットに数多く転がる情報のうち、研究者の情報をどのように集めるかについて見ていきます.
研究者の何を知りたいか
研究者が何をしているかといえば、予算を獲得して、その予算を元手に研究を行い、論文や学会発表の形でアウトプットを繰り返しています.最も大事なのは、優れたアウトプットを出しているかどうかでしょう.
NatureやScienceといった最高峰のジャーナルで論文を発表している研究者は、優れた研究を展開している可能性が高いです.次いで重要なのは予算規模で、基礎学術的には重要でなくとも国家プロジェクトクラスの大型予算で応用研究を展開している方々もいます.
研究者の情報が載っているHPは数多いですが、それぞれ重視する内容が異なっています.予算状況を知ることに特化したサイト、論文の出版状況を知るのに適したサイト、プロフィールを知ることに向いたサイトなど色々あるので、以下で見ていきましょう.
研究者の人となりを調べる
個人のHP、SNSアカウント
研究者によっては、所属先と関係なく個人でHPやSNSを運営している場合があります.どの情報を載せているかは個人次第ですが、プロフィールから出版リストまでまとまった情報が載っている可能性が高いです.しかし、個人HPを運営していない研究者も多くいます.
研究室のHP
目的の研究者の所属している研究室が分かるのであれば、その研究室のHPでも情報が見られることでしょう.詳しくは、研究室HPの見方の記事に譲ります.目的の研究者が研究室の主催者であれば研究室HPを見れば十分な場合もありますが、助教やポスドクの場合は詳しいことが載っていないかもしれません.
世界最大級のビジネス向けSNSです.研究者に限らず、多くの社会人が利用しています.履歴書を世界中に公開し、共同ビジネスや転職、専門家へのコンタクト等に利用されます.公開する範囲は個人の自由であり、研究者の登録内容に応じて経歴や出版物、交友関係を知ることができます.
ResearchGate
研究者向けのSNSです.研究者間の交流を目的とし、出版リストやスキル、共著者などを閲覧可能です.自身が権利を持つ学術論文を公開する機能もあり、他の研究者に論文のアップロードをリクエストすることもできます.LinkedInと同様に研究者の就活にも利用されています.
X(Twitter)
研究者によっては実名でX(Twitter)を利用しています.公式の情報のみを呟く真面目なアカウントと公私関係なく様々なことを呟くアカウントに分かれます.
研究者の業績を調べる
researchmap
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が運営する研究者の大型データベースです.予算の審査に活用されることから、日本の研究者のほとんどはresearchmapにデータを登録しています.
researchmapにはあらゆる情報が詰まっています.所属、職歴、委員歴、学歴、研究キーワード、研究分野、受賞、論文、著書、特許、講演、担当科目、所属学会、獲得した予算などを一覧にして閲覧することができます.研究者の経歴をおおまかに把握するには充分だと言えます.
一方で、あくまで研究者が任意で登録する仕組みなので、何を掲載するかは研究者の裁量に任されています.名前と所属先くらいは分かりますが、論文リストや経歴は不掲載の人もいます.また、更新も任意なので長い間情報が更新されていない場合もあります.国内の研究者のためのものなので、諸外国の研究者は登録していない点にも注意が必要です.
Google Scholar
学術論文の検索エンジンとして便利なGoogle Scholarですが、研究者のプロフィールも掲載することができます.適当に論文を調べて著者のリンクをクリックすると、プロフィールのページに飛べます.
論文の情報に特化したサイトであり、これまでに出版された論文のリストのほか、被引用数やh-indexなども見ることができます.研究者をフォローすることで、新しい論文を発表したときに通知を受け取れるようにすることも可能です.発表論文のページに直接アクセスできるのも地味に便利です.
一方で、更新は任意(一部は自動)であることから最新の情報が更新されていない可能性があります.自動で論文リストが更新された際に、同姓同名の別人の業績が論文リストに加わっている場合があります.良くも悪くも論文に関する情報しか分かりません.
ORCID
研究者の所属が変わったり名前が変わったりすると、誰が誰だか分からなくなります.個人がいつでも特定できるように、一人ひとりに専用の研究者番号を付与する仕組みがORCIDです.ORCIDはマイナンバーのように研究者に固有のIDを与え、個々人の業績が間違いなく評価されるようにしています.
ORCIDのページでは、研究者の発表論文と経歴が分かります.特に発表論文はORCIDにより自動更新されるため、信憑性が高いです.後述のPublonsと連携していれば研究者の査読歴も分かります.一方で、経歴と所属に関しては更新は任意です.
Publons (閲覧には所属機関が登録している必要あり)
研究者は自分の論文を発表するだけでなく、他人の論文の評価も行っています.これが査読と呼ばれる仕組みで、出版前の論文を精査することで出版の可否をジャッジします.査読は匿名のボランティアで行われるため、業績として評価されにくかったのですが、最近では査読歴も評価の枠組みに入れようという動きが広がり、査読歴を可視化できるデータベースとしてPublonsが生まれました.
Publonsでは、研究者の査読の情報を閲覧できます.正直これだけ見ても分かることは少ないですが、真面目に仕事を行っているかは分かります.Natureなどの一流誌の査読を依頼されるのは一流の研究者である必要があるので、一流誌の査読歴があれば世界的に評価されている研究者であると言えるでしょう.なお、査読の登録は面倒な作業なので頻繁に更新していない人も多いです.
Scopus
世界最大級の研究者データベースです.各研究者の全ての発表論文リストに加え、様々な情報を閲覧可能です.被引用数、共著者のリスト、参考文献リスト、研究トピックに加え、ソート機能やエクスポート機能も充実しています.「こんな機能までいる?」と思えるような機能もあります.
研究業績を調べるには最も情報量が多いデータベースと言えます.一方で、所属機関がScopusに登録していない場合はごく限られた機能しか使用することができません.
J-PlatPat [JPP]
特許のデータベースです.大学研究者であれば特許はそれほど多くないはずですが、企業研究者であればむしろこちらが中心になっているはずです.
研究者の予算を調べる
KAKEN
研究者は、様々な機関から研究費を獲得していますが、最も有名かつ規模が大きいのが文部科学省および独立行政法人日本学術振興会が主催する科研費です.様々な種目があり、獲得できた予算規模に応じて研究の規模も決まってきます.これがなくては研究ができないので、科研費の獲得は重要な使命です.
研究者がこれまでにどのような科研費を取得したかはKAKENデータベースにまとめられています.予算の名称と金額、研究実施機関のほか、研究の概要や研究成果、報告書も閲覧することができます.数千万円クラスの予算はめったに得られるものではなく、予算規模に応じて研究室の規模もなんとなく推測できます.
また、予算の名称を知るだけでなく、各研究の報告書を読むこともできます.研究者は「こんな報告書は誰も読まないだろう」と考えて、あまり洗練されていない形式で書くことも多いですが、今現在どのような研究を行っているかの参考になります.また、未発表の内容の報告が転がっていることもそれなりにあります.
日本の研究ドットコム
こちらは国の公式のデータベースではありませんが、KAKENと同様に研究者の予算を閲覧できます.KAKENとの違いは、科研費以外の予算も掲載されていることです.例えば、JSTや各種省庁の予算が挙げられます.科研費には縁がなくても他の予算は潤沢である場合もあり、こちらの方が研究者の経済状況をより正確に知ることができると言えます.ただし、公式のリストではない点に注意が必要です.
GRANTS
KAKENのデータベースのほか、JSTの予算も含んだデータを閲覧できるデータベースです.情報としては日本の研究ドットコムと同等ですが、公的機関のサービスであるという安心感があります.
まとめ
情報化の波に押しつぶされそうな現代ですが、研究者の業績についてもしっかりと情報が管理されています.便利といえば便利ですが、研究者当事者にとってみれば、ネット上で全て分かってしまうのも気苦労がありそうです.常に監視されているという気持ちで励めということでしょうか.とはいえ、研究者について詳しく知りたい人にとっては便利な世の中です.
*1:反対に、全く見つからないのであれば研究者として活動しているのかが疑わしいところです